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第17回オンキヨー世界点字作文コンクール 成人の部に弊法人のダークアテンドが入賞しました!

オンキョー株式会社および公益財団法人「日本教育科学研究所」主催ならびに毎日新聞社点字毎日の特別協力にて開催の「第17回オンキヨー世界点字作文コンクール」の成人の部・佳作にダイアログ・イン・ザ・ダークアテンドを務める関場理生が入賞しました!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000194.000027644.html

作文全文は以下です。ぜひご一読ください。


国内の部 成人の部 佳作「初めて一人で劇を見に行った日のこと」
関場 理生(23歳)

「人は一人では生きていけない」と言われるけれど、それは本当なのだろうか。

小学生の頃からそう思っていた。「何でも一人でできるようになりなさい」と先生はいつも繰り返していた。私は物心ついた時から全盲、文字通り何も見えていない。が、地域の小学校で統合教育を受けていた。見ることの「できない」私は、周りの「できる」子や先生に助けてもらいながら生活していた。

「一人じゃ何もできねえんだな」
と、クラスの男子に言われたことを、私はずっと忘れない。そのバカにした調子も、聞いていた先生の「そんなこというんじゃありません」という注意も、できないことは悪いことなんだ、人に頼るのはよくないことなんだと、私に刷り込んでいった。その時私は、周りの子のようにならなくてはいけないと思った。一人で何でもできるようにならなくては、と。

中学も高校も、私は地域の学校に通った。私は少しずつ一人でできることを増やしていった。家から学校、最寄り駅まで行くことができるようになった。馴染みのない駅でも点字の表示を見て歩けることを知った。パソコンの存在は大きい。検索すれば分からないことなどないと思ったし、話題のアニメを見て友達と話ができた。

私はいつの間にか、自分は「できる子」なんだと信じ込んだ。道で迷っていると「どこに行くんですか?」と声をかけられる。そんな時私は、口ではお礼を言いながら、内心「ほっといてくれればよかったのに」と毒づいているのだ。「もう少ししたら一人で解決できたんだよ」と。友達とアニメの話をしている時も、セリフがない部分のストーリーを私だけ知らなかった。「あのシーンは無言なんだけどこういう動きをしてるんだよ」と説明されると、「やっぱり予想通りじゃん。聞かなくてもよかったな」と心が引いていった。「私は一人でできるんだから、構わないで」。

大学でも健常者に混じって勉強していた。1年生の5月頃だったか ―。毎週、授業終わりに一緒に帰っていた友達に、突然
「今度、一人で帰る練習しよっか」
と言われた。
「え、上から目線だなー」「私は一人じゃ帰れないと思ってるんだ」「親切心で一緒にいてくれたんだ」「これが友達か」。

そんなことがあってから、私は大学で友達を作るのをやめた。授業や校舎内の移動は大学の職員の方がサポートしてくれた。それで十分だった。
一人で出かける機会もぐんと増えた。私は演劇を見るのが好きだった。高校生までは友達と見に行ったが、劇も一人で行こうと思いたった。

降りたことのない駅だった。そこから5分ほどバスに乗れば劇場の前に着くという。駅員さんにバス停まで案内してもらいながら、私はバスを降りたら右に行くのか左に行くのか考えていた。バスに乗り込む。目的の駅に着いても、その答は出なかった。私は誰かに聞くこともできないで、バスを降り、広い歩道で途方にくれてしまった。劇場はもう目の前のはずなのにどこにあるかが分からない。開演時間のことを思うと不安に拍車がかかった。私は初めて、人がいない孤独を感じた。

誰かの足音が聞こえた時、ほっとするとか困っている自分が恥ずかしいとか、そんな感情は一切なく、ただもう人がいることがうれしかった。
「すみません」
と声に出ていた。
「はい?」
「この近くに劇場ってありますか?」
「あ、すぐそこですよ。入り口分かりにくいですよねー」
と、連れて行ってくれた。それまで私の心にのしかかっていた不安が、綿毛みたいに軽くなったように思う。

劇場に入ると、スタッフの方が座席まで案内してくれた。開演にも間に合い、目いっぱい観劇できた。その劇は予想以上に新しい感覚で、心が躍るようで、最後には自然に涙があふれてきた。私はすぐ誰かと話したくなった。けれど、帰りのバス停に、私は一人だった。「友達がいたら、思う存分語り合いながら帰れたんだなー」。私はその日2度目の孤独を感じていた。

そんな気持ちでバスに乗ろうとした時、 「駅までですか」 と声をかけられた。聞けば同じ劇を見ていたのだという。私は堰を切ったように質問していた。 「あのシーン無言でしたけど、どんな動きをしてたんでしょう?私の想像では…」 駅まで話が尽きなかった。自分の想像が合っていても間違っていてもよいと思った。ただ、この劇を、分かち合いたかった。それはもしかしたら、人がいない孤独を感じたこの日だからこそ、生まれた気持ちだったかもしれない。
その時から私は、「人は一人では生きていけない」という言葉を、本当だと思うようになった。というより「一人で生きていこうとしなくてよい」と考えが変わったのだ。一人で出かけることは楽しい。なぜなら私は、一人じゃ何もできないから。人と出会い、話をして、分かち合うチャンスを持っているのだ。

私はもう社会人になった。自分から人に話しかけるのはまだ苦手だけれど、初めて一人で劇を見に行った日のことは忘れないでいたい。