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お知らせ

マジョリティとマイノリティの境界線は曖昧。「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」プロデューサー、大橋弘枝が伝えたいのは、「勝手な先入観に囚われないこと」

マジョリティとマイノリティの境界線は曖昧。
「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」プロデューサー、
大橋弘枝が伝えたいのは、「勝手な先入観に囚われないこと」

「リアル対話ゲーム」とは、多様な個性を持つマイノリティのキャストとともにゲームをしながら対話を重ねる体験型の“ソーシャル・エンターテイメント”。
ステージや特別なシーンで「観る」のではなく、ふだんの生活の中ではなかなか出会うことのない人同士が文字通り触れ合い、対話することができる機会を創り出します。

2022 年に開催した最初の「リアル対話ゲームⅠ『地図を持たないワタシ』」は 3 週間で 1060 名を動員し、大好評のうちに幕を閉じました。
今夏、第二弾となる「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」は、昨年同様、一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティが運営し、ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」で開催します。

この「リアル対話ゲーム」シリーズをプロデュースする大橋弘枝(おおはしひろえ)は生まれつき耳が聴こえません。
彼女がこの“ソーシャル・エンターテイメント”を通じて伝えたいことについて、また現在エントリーを受け付けているキャストのオーディションには、どんな人に応募してほしいのかについてインタビューに応えました。

プロデューサー 大橋弘枝 イメージ

耳が聴こえないことがわかった 2 歳から、「口話(こうわ)」を徹底的に訓練

「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」で私が伝えたいことのひとつ、「マイノリティとマジョリティの境界線はグラデーションだ」という思いは、私の生い立ちから形作られています。

私は昭和 46 年(1971 年)生まれ。父、母、姉、私以外は聴こえる人という家庭で育ちました。私の耳が聴こえないとわかったのは 2 歳のころでした。1970 年代当時、手話は主流ではなく、口話ができるようになることが良いとされていました。
親としては、子どもが大人になって社会に出たときに困らないようにと思い、私への教育として口話の訓練を選んだわけです。
でも、口話を習得するのは非常に大変でした。手本となる声も自分の声も聴こえないから、口話は厳しい訓練によってしかできるようになりません。
まずは口の形を見てまねて、舌とのどの位置関係を意識して、呼吸と組み合わせて構音する訓練です。
親ののどに手を当てて、発声したときのふるえの微妙な違いを手で触って覚えていくのです。
また、単語を覚えるために、部屋じゅうのものに「テレビ」とか「テーブル」とか名称を書いた紙が貼られ、親が指さしたものの名前をいちいち発音して読み上げる練習をします。

こうして家にいても学校にいても、とにかくどこへいっても発音の練習でした。休めるのは寝ている間だけ。発音の練習の効果によって、ようやく「ママ」、「パパ」と言えた時には、両親はものすごく喜びました。
「この子はできる」とわかったものだから、さらに特訓のレベルは上がりました。そうなるとますますつらくてたまらなかった、でも、口話は上達しました。

「前例がない」と言われる中、「前例」となった、苦しかった小学校・中学校時代

こうして、聴こえる子どもの幼稚園を経て小学校に上がるときに、親は私を特殊学級(今の特別支援学級)ではなく、聴こえる人と同じ学級に入れたいという思いがありました。今ではインクルーシブ教育ということばもありますが、1970 年代当時では前例のないやり方です。大きなチャレンジでした。受け入れてくれる学校を探し、静岡から栃木へと引っ越しました。

私は初めて学校で声を出した時、みんなとは違う発声に注目を浴びたことに驚いて、「ここに 6 年間も通うのは無理!」と思ったことは忘れません。
それでも、学校では先生も友だちもたくさんの工夫をしてくれて、成長することができましたが、やはり日本語のことばの理解が一般の子どもたちよりも遅れていました。訓練してきたのは発音であって、ことばの意味はよくわかっていなかったのです。

そのことに気づいた親は、マンガを与えてくれました。マンガは、絵があって、登場人物の感情もわかりやすい。
会話ってこうやってするんだ!と、やっと意味がわかったのでした。

その後、小学校・中学校の間も手話を使わず、口話でコミュニケーションをし続けることで、苦労したこと、つらかったこと、悔しかったことは数えきれないほどあります。今の時代のように早くから手話を習っていたら、もっと苦労しないですんだのかもしれません。

高校時代に爆発した怒り。それが今の活動の原動力に

私は将来、美容師になりたいと思っていました。でも、高校では「美容師になるにはコミュニケーションが大事だから、聴こえないあなたには無理」と言われてしまったのです。
このときに、私の怒りは爆発しました。口話は、社会に出たときに普通にみんなとコミュニケーションするためだと言われてきたのに、いままで必死で頑張ったのはなんだったの?と。

そして、社会人になってから、手話に出会いました。手話は、自分のありのままを伝える言葉で、私のアイデンティティを支えるものとなりました。ようやくほんとうの自分の言葉を持ち始めたのです。
だからなおさら、「どうしてこれまで手話を私にやらせてくれなかったの?」という親や社会への激しい怒りがありました。それまでは、「うまく伝えられないことがあっても、自分ががまんすればいい」と、無意識に押さえている蓋のようなものがありましたが、その蓋がバーンと開いてしまったのです。

この怒りが原動力となって自分がこれまでできなかったことを次々とやり始めました。
一人旅をしたり、ダンスチームを立ち上げたり、アメリカに演劇やダンスの勉強をしに留学もしました。

エンターテイメントを通じて、人と人との垣根を超えられるまで

アメリカに行って衝撃的だったのは、アメリカ人は人とのコミュニケーションで遠慮をしないということでした。
「私は耳が聴こえない」というと、日本人は「じゃあいいです」とコミュニケーションをあきらめてしまう。
でも、アメリカ人は「じゃあ紙に書いて」と積極的になる。そんなコミュニケーションのとり方は、日本では経験がなかったし、すごくうれしかった。
しつこいくらいにかかわろうとして、私のことを受け入れてくれたのです。

そのうちに、自分から行動していくことで人とのかかわり方が変わり、思いがつながるようになると、理解が生まれ始めるということがわかってきました。
こうして耳が聴こえる・聴こえないの垣根をこえて理解し合う喜びを実感できたことを、日本でも、私以外の人たちもそうなったらいいのに、と思うようになりました。
自分を認めてくれる人とのつながりの大切さを、たくさんの人に伝えること、それが私の使命かもしれない、それが実現できる仕事をしていこうと思ったのです。

こうして、私は帰国して、エンターテイメントでこの思いを伝えようと考え、聴こえない人と聴こえる人が一緒に仕事し成長して作品をつくりあげていく演劇(サインアートプロジェクト.アジアン)を作りました。

「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」で体験してほしいこと、伝えたいこと

怒りの感情は、今はまったくなくなりました。それは、演劇をつくる課程で、徐々に理解の輪がひろがっていったときに、消えていったんだと思います。

怒りを原動力に演劇を作っていたころも、怒りが消えた今も、伝えたいことは変わっていません。
それは、マイノリティとマジョリティの境界線はグラデーションだと気づくことです。

私たちは、いる場所によってマイノリティとマジョリティの境界線は変わります。たとえば、今この部屋に女性が 4 人いて、聴こえる・聴こえないで分けたら私がマイノリティです。でも性別で考えたら私も含めて全員がマジョリティとなります。
その人はそのまま変わらなくても、場面によって変化する、曖昧でグラデーションになっているのがマイノリティとマジョリティの境目。囚われていることから抜け出せると、このことを実感することができます。

自分がマジョリティだと感じている人の多くは、障害のある人と身近に接する機会は少ないでしょう。身近にいないからこそ「私とあの人たちは違う」という勝手な先入観があり、そのせいで遠くの存在と感じてしまうのかもしれません。
この「勝手な先入観」を壊すためには、違うと思っている存在とリアルに出会うことが必要です。

ただ、そういう「場所」をつくっただけでは人は来てくれません。楽しみながら出会うエンターテイメントだから、可能になることがあります。
「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」の 90 分間、ゲストとキャストが一緒に過ごすことで、囚われていたものから解放されて、このグラデーションを実感してほしいです。たくさんの人に、このことに気づいてもらえるエンターテイメントを作っていきたいと思っています。

キャストのオーディションには、エンターテイメントの経験よりも、自分は自分と認めることで魅力を発揮できる人に来てほしい

今回のキャストオーディションでは、囚われているものから解放されるための仲間を募集しています。
キャストとしては、聴こえない人、見えない人、車椅子ユーザー、義手や義足の人、精神疾患のある人、マイノリティの家族など、様々なタイプのマイノリティを募ります。
エンターテイナーとしての経験のあるなしは関係ありません。自己開示できる人、自分を受け入れている人を求めています。
それは、自分のことを肯定的に、積極的に話せる人ということでもあります。自分は自分と認めることで魅力を発揮できる人を求めています。

「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」で、これまでこんな風に囚われていたんだと気づく体験を、ぜひ私と一緒につくりだしてください。

プロデューサー 大橋弘枝 あいさつ

「リアル対話ゲームⅡ『囚われのキミは、』」開催概要

開催場所

ダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」(JR 浜松町駅より徒歩5分)

開催日程

2023 年 7 月 29 日~9 月 10 日(44 日間)

運営

一般社団法人 ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ

キャスト募集要項の詳細は以下をご覧ください。
【3/28 更新】リアル対話ゲームシリーズⅡ「囚われのキミは、」キャスト募集